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2021-03-12 06:00:00

白内障について〜治療

このシリーズも大詰めを迎えました。

 

白内障の治療というと手術を思い浮かべる方が多いと思います。確かに手術もいいと思います。ごく一部の白内障例を除き、手術しか視機能を回復する方法はありません。原因編で記載しましたように、原因についてよく考えて手術を踏み切ります。

 

大きく分けて、視機能を回復させるための外科療法、炎症を抑えるための内科療法があります。

 

 

内科療法を選択した場合、見えないけれど、白内障から発生する眼続発症を回避する目的で、消炎剤を点眼します。白内障が起こるとぶどう膜炎が発生しやすくなるからです。1日1-2回の消炎剤点眼を行います。悠然と構える形です。うまくいけば、眼続発症を抑えれますし、抑えれない場合もあります。目の中に出血が見られたり、目が拡大してきたりします。眼続発症を発症して痛みを伴う場合、眼球摘出や義眼などの外科療法、鎮痛剤服用の内科療法を選択していきます。

 

 

外科療法(手術)を選択した場合、見えるを目標に、さらに、術合併症を抑えるように点眼薬を処方します。手術は全身麻酔下で行い、片目だいたい30分以内です。人間の手術と似たような手法ならびに器具や機械を用いて行います。手術用顕微鏡(Zeiss社Lumera700)、超音波乳化吸引機(ALCON社コンステレーション)、粘弾性物質、眼内レンズ(メニわん社DVS15)を主に用いております。麻酔覚醒後から術後高眼圧に備えて、眼圧をはかります。高眼圧になる例の多くは術後3-4時間でそれ以降は減少に転じます。全ての例で眼圧が上昇するわけでありません。翌日も眼圧測定、手術時に作成した角膜創口の安定性、眼内の炎症の程度などなどをチェックします。術後のエリザベスカラーは必須になりますが、一日中するとワンコも疲れてきますので、散歩や食事といったご家族が目を掻かないよう見れる時間帯は外してもらうよう伝えています。過去にエリザベスカラーをつけっぱなしにして、首の周りにひどい皮膚病を起こしてしまった例がありました。とても申し訳ないことをしたなぁという教訓があるため、時々外してもらいます。

手術中風景

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超音波乳化吸引機で白内障成分を吸い出し、眼内レンズを入れる手法が取れない例もあります。水晶体が脱臼する例が代表例です。その時は水晶体摘出へと進みますが、水晶体を摘出しても目が見えなくなるわけではありません。手元が見えにくくなる印象ですが、多くのわんこはその環境に適応して通常の動きを取り戻してくれます。

 

 

手術の合併症は内科療法と同様です。目の中に出血が見られたり、目が拡大してきたりします。手術例では水晶体成分はすでに目の中にはありませんので、痛みに関してはそれほど強くない印象です(全例が痛がらないというわけではありません)。けれど、せっかく取り戻した視機能を再度失ってしまうため、見ている方は辛いです。ただし、失明してしまったからといって全てが終わりではなく、内科療法にも言えることですが、ロービジョンケア(視機能が低下した後のケア)を一緒に考えます。ぶつからないように様々な工夫について、いろんなご家族からの案がありますし、この先も新しい案は浮かんできます。みんなでその子をフォローします。手術前に想像していた幸せを違う形で一緒に作ります。

 

 

最優先で考えるべきことは病気が主語ではなく、そのワンコが主語になるように、そして、そのワンコの福祉を考えて、最適解を探していきます。いくら話し合っても結論出ない時もあります。でも、その話し合いこそが大事な時間であり、内科を選択したり手術を選択したりした時に活きてくるものと信じて診察しております。

 

 

これでこのシリーズはおしまいです。

学問は進歩していきますので、アップデートがあれば記載していきます。

 

 

くるめ犬猫クリニック 院長 奥井寛彰